SK-1とCZシリーズはなぜ生まれたのか。1980年代、CASIOが音楽の世界に残した革命

少し前の時代にさかのぼって、当時の楽器の話をしていると「どのようないきさつで、このような製品が生まれたのだろう?」と、時々不思議な気持ちになることがあります。

今ではビンテージ機材として愛され、世界中のミュージシャンやコレクターたちの間で語り継がれている、CASIOSKシリーズCZシリーズも、まさにそんな楽器です。

発売当時を思い返してみると、CASIOがシンセサイザーやサンプリングキーボードを作ること自体、意外で少し驚いたことを覚えています。そして、仕様、性能、完成度が本格的だったことも。

CASIOといえば世界的にも有名な電卓時計。そんなイメージを持っていた方も多かったのではないでしょうか。当時は「カシオトーン」などのキーボードも登場していたようです。

だからこそ、CZシリーズやSKシリーズが登場したとき、「えっ、CASIOがシンセサイザーを?」と思った人も少なくなかったと思います。

1980年代という特別な時代

今でこそパソコン一台で音楽制作ができる時代ですが、1980年代は電子楽器そのものが急速に進化していた時代。シンセサイザーは憧れの存在でしたが、まだまだ高価なものでした。

プロミュージシャンやスタジオのための機材という印象が強かったように思います。

そんな中でCASIOは更に先を見ていたのかもしれません。専門家だけのためではなく、もっと多くの人に電子楽器の面白さを届けたい。そんな考えがあったように感じます。

実際、後に登場するCZ-101は比較的コンパクトで価格も抑えられていました。本格的な音作りができるにもかかわらず、一般の人にも手が届く存在だったのです。

怒涛の新作ラッシュ

実は、1984~1985年のCASIOを見ていると、「なぜこんな短期間に次々と新製品が出せたのか?」と疑問が湧いていました。それぞれを発売順に整理すると、

  • CASIO CZ-101(1984)
  • CASIO CZ-1000(1985)
  • CASIO CZ-3000(1985)
  • CASIO CZ-5000(1985)
  • CASIO SK-1(1985)
  • CASIO SK-5(1985)

などが立て続けに登場しています。

このスピード感から「開発チームが何十もあったのでは?」とも思います。しかし実際は、完全に別々の製品をゼロから作ったわけではなかったようです。

共通技術を展開していた可能性

CZシリーズを見ると、CZ-101からCZ-5000まで、

  • 音源方式(PD音源)
  • 基本アーキテクチャ
  • 音作りの考え方

が共通しています。つまり、一度エンジンにあたる部分を作った後に、

  • 小型モデル
  • 上位モデル
  • 鍵盤数違い
  • シーケンサー搭載モデル

へ展開したと考える方が自然です。

FM音源ではなくPD音源を選んだ理由

当時のシンセサイザー業界では、YamahaのDX7が大きな注目を集めていました。FM音源という新しい技術が音楽の世界を変えつつあった時代です。

もしCASIOが同じ道を選んでいたら、また違う歴史になっていたかもしれません。しかしCASIOは独自のPD(Phase Distortion)音源を開発しました。

ただ、その選択にはCASIOらしさを感じます。既存の成功例を追いかけるのではなく、自分たちなりの方法を探す。

時計や電卓の世界でも見られる、そんな企業文化があったのではないでしょうか。

SK-1という、後に大きく実を結ぶ新たな挑戦

そして1985年。サンプリングキーボード「SK-1」が登場。今の視点から見ると、わずか1秒ほどのサンプリング時間しかなく、音質も高いとは言えませんが、当時としては驚くべき楽器でした。

自分の声を録音できる。物音を録音できる。そして鍵盤で演奏できる。

今では当たり前のように感じるかもしれませんが、当時はプロの技術だと思っていたことが、急に手の届くところにやってきたわけです。多くの人がワクワクして、心躍らせた出来事でした。

CASIOの開発者たちは、プロ用ではなく、一般の人が楽しめるサンプラーを作ろうと意図していたようですね。「音で遊ぶ楽しさを届けたい」そんな気持ちの方が形になったのではないでしょうか。

名前の残らなかった技術者たち

不思議なことに気が付いたのですが、SKシリーズやCZシリーズについて調べていても、開発の中心人物があまり語られていないのです。もちろん社内には優れた技術者がいたはずです。

PD音源を考案した人。

SK-1を設計した人。

商品化を決断した人。

多くの人が関わったことでしょう。しかし、その名前はあまり表に出てきません。それは少し意外もありますが、同時に、どこかCASIOらしい気もします。

個人の功績よりもチームの成果として語る。そんな企業文化があったのかもしれません。

だから今も語り継がれる

40年以上の時が流れ、技術は大きく進歩しました。スマートフォン一台で、当時では想像できないほど高性能な音楽制作ができる時代。それでもSK-1やCZシリーズは忘れられるどころか愛され続けています。

なぜでしょう。

それは単なる性能ではなく、「発想」が面白かったからだと思います。

高価な技術をもっと身近にしたい。

難しいものを楽しくしたい。

専門家だけのものを一般の人にも届けたい。

そんな思いが製品の中に残っているからこそ、今でも多くの人が惹かれるのではないかと思います。

もし当時の開発者たちが、40年後のもSK-1やCZシリーズが愛されていることを知ったら、どんな顔をするだろう?と時々思います。

少し驚きながら、そして少しだけ嬉しそうに笑う、さわやかな光景が思い浮かびます。CASIOが残した挑戦は、40年の時を超えて、今も世界中の音楽好きの心を動かし続けています。

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